北の大地にともる音楽の灯火〜羽田から約800km、札幌の澄んだ空気と最上級の響きに魅了されて〜

旅先を訪れた際、私は時間を見つけてはその街のピアノショップや工房へフラリと立ち寄るのを密かな楽しみにしています。

かつてニューヨークを訪れた際も、スタインウェイのショップへ足を運びました。そこはいわゆる華やかなショールームではなく、職人たちの手仕事の息遣いが漂う武骨な「工房」そのもの。その場が纏う空気、木と金属の匂い、そして街とピアノの関わりに深く感じ入ったのを今でもよく覚えています。奥からは留学中という日本人チューナーの日本語が聴こえてきてビックリしました。

■ 900kmの移動を一瞬で忘れさせた「最上級の響き」

今回の札幌でも、ふらりと足を踏み入れたお店で、実に胸が熱くなるような素晴らしい一期一会がありました。

羽田から飛行機でおよそ900km。北国の澄んだ空気の中で響く木の温もりに満ちた音色を耳にした瞬間、移動距離など一瞬で吹き飛んでしまいました。

指先から伝わる繊細なタッチ感、まるで自分の心身の延長のような一切の「ひっかかり」が無い発音、空間へ豊かに広がる芳醇な響き―。国内外の多くのトップ演奏家たちが何故このメーカーの最高峰モデルを選ぶのか、その理由を深く納得すると同時に、ここ札幌の地で改めてその答え合わせができたような、圧倒的ポテンシャルに一瞬で魅了された時間でした。

■ ショパンコンクール入賞者が訪れる空間と、北国の音楽への熱い思い

私がその最上級の音色に心奪われる場をご提供してくださったのが、エリアマネージャーの方でした。札幌が生んだ鬼才ピアニストである我が師のことも間接的にご存知でいらっしゃいました。縁も所縁も無い札幌の地で、初めてお訊ねしたショップさんで我が師との繋がりや母校のネットワークをお伺いすることが出来たことは、この上ない喜びでした。そして、更に驚くようなお話を伺いました。

「実はこの後、昨年のショパン国際ピアノコンクールで3位入賞されたズートン・ワンさんが、リハーサルのためにここへいらっしゃるのですよ」

翌日の本番に向けてホールで響かせるための調整として、信頼を寄せるそのメーカーのショップへ極上の響きを確かめにやってくる―。本物を極めた一流の演奏家がなぜこの場所とこの楽器を選ぶのか、その一端に触れた瞬間でした。

遠く離れた北の地でひたむきに芸術の灯りをともし続ける人々の情熱と、最高峰の響き。音楽ホールで直接その響きに浴する時間は今回惜しくも叶いませんでしたが、次回訪れる際は、札幌交響楽団の演奏会へ必ずや足を運ぼうと心に誓いました。

■ 本物の音色と、それを生み出す「身体」の探求へ

NYの工房の空気感、そして札幌の澄んだ気候と最高峰の楽器が織りなす本物の音色。こうした本物との出会いは、私にとっても大きな刺激となります。

どれほど素晴らしい楽器であっても、それを奏でる人間の身体が無理な力みに苛まれていては、楽器本来の美しさを100%引き出すことはできません。

素晴らしい音色に出会うたび、私は指導者として「受講生の方々が身体を傷めず、伸びやかにその楽器のポテンシャルを響かせられる一生モノの奏法」を伝え続けていく責任を、気持ち新たに誇りに思うのです。
【快適に楽器とコネクトする方法について】
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